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怒涛の第1回! |
音楽業界を影で支える「大人のみなさん」にスポットを当ててお送りする連載インタビュー企画「ランブリン大人袋」!記念すべき第1回のゲストは、マスタリングエンジニアの北村秀治氏が登場です。日本を代表するエンジニアから見た音楽配信の現状について、アグレッシブに語ってもらいました。はりきってどうぞ!
(取材・文/大山卓也 コーディネート/高橋卓也(データリーフ))

●PROFILE
北村秀治(オーディオシティー)
マスタリングエンジニアPROTOOLSを自在に駆使し、ジャズからロックまで、さまざまなサウンドを生み出す実力派マスタリングエンジニア。THE HIGH-LOWS、小野リサ、ズボンズ、曽我部恵一など、氏が手掛けた名作は数多い。サウンドプロデューサー、日本屈指のハモンドオルガン奏者としても活躍。
音楽配信時代の“いい音”を追求する
〜マスタリングで変わるデジタルサウンドの秘密〜
前編
北村秀治氏(オーディオシティー)は多くのミュージシャンが絶大な信頼を置く、玄人肌のエンジニアだ。氏は自分の耳と経験を頼りに、音楽配信に最適化したマスタリング技術を確立。「圧縮音源が悪いのではなく、技術不足のエンジニアが作ったCD用の音源をそのまま圧縮することがよくない」と語るその独自の視点は非常に興味深い。2回に分けてインタビューをお届けしよう。
■“いい音の基準”なんてものはないんですよ
――MP3やAACなどの圧縮音源は音が悪いと言われていますが、それは事実なんでしょうか。どれくらい、どのように悪いのか、というのをまず最初に伺いたいんですが。
そうだね、じゃあまずは、音がいい/悪いっていうその概念の話からしましょうか。結論から言うと“いい音の基準”なんてものはないですよ。
――どういうことでしょう?
例えば、道ばたにうんこが落ちてましたと(笑)。これは誰が見てもきたないし臭いよね。でもこれがアイスクリームが落ちてたとしたらどう? もったいないと思う人もいれば美味そうだと思う人もいて、きたないと感じる人もいるでしょう。概念が崩れてくるわけです。いいとか悪いとかの一言で片付けられるものとそうじゃないものが世の中にはある。そのときに“音”というのはいちばん微妙なところなんだよね。だから逆に聞くけど、いい音っていうのはどんな音だと思います?
――うーん、なるべく原音に近い音がいい音なんじゃないでしょうか。
それだと、じゃあスッピンの女の子がいちばんキレイなの?ということになっちゃうよね。でも必ずしもそうとは限らない。いわゆるピュアオーディオの愛好家やオーディオマニアの人たちが嫌うイコライザーやコンプレッサーを使ったほうが、自然な音になることがあるんです。それはなぜか。俺はそれらの技術を、音をゆがめるためじゃなくて音を補正するために使ってるんですね。録音された音が原音というわけじゃないから、イコライザーやコンプレッサーを使うことによって、かえって自然に聴こえるようになる場合があるんですよ。
オーディオマニアの人の中には、音楽を聴くことよりも機械の性能をチェックするのが目的みたいになってしまう人もいるんだよね。何千万円のステレオ持ってて、レコード3枚しか持ってない人を俺、見たことある(笑)。
――音楽を楽しむことからズレてしまうんですね。
だから俺は、iPodで音楽を聴いてるような音楽ファンのほうがある意味まともだ思うよ。音楽を普通に聴きたくて、別にお金をかけたいわけでもない。今から20〜30年前のカセットユーザーの感覚に近いのかもね。ダウンロードでどんどん新しい音楽を手に入れてそれが聴ければいい。でももしできるなら、自分にとって気持ちいい音で聴けたほうがいいとは思ってる。そういうことだよね?
――そうです。今回の記事が、そういう“普通のユーザー”が、自分にとって心地よい音を探すための参考になればと思っているんです。
■レコードのほうが音がいいというのは先入観にすぎない
音に関して言うと、もともとの生音を知らない人が多くなってきてるね。例えば10代の子の間で味覚音痴が増えてる。カップラーメン3つ並べて、塩と味噌としょうゆがあるのにどれが味噌でどれが塩だかわからないという人が本当にいるんですよ。信じられない話だけど。
――それは小さい頃からちゃんとしたものを食べてないせいで味覚が未発達だということですよね。
うん、でも音楽も同じなんだよ。そういうことが起こってる。要するにシンセサイザーなんかが普及して、80年代以降は極端に生音が使われない時代があった。その時期のサウンドももちろん悪いわけじゃないんだよ。昔のカセットで録ったブートのレコードなんかよりずっと平均レベルは高い。でもそればかり聴いて育った人は、それが基本というか、その人にとっていちばん心地よい音になってしまっているんだよね。
――レコード世代の人の中には「レコードの音がいちばんいい」と言う人も多いですよね。
それも先入観だね。もともとアナログでもデジタルでも、マイクで録ってスピーカーから出すことは変わらないし、何かの方式に変換しているということもあまり変わらないから、デジタルだから音が固いとかアナログは奥ゆかしい音がするっていうのは大嘘。どっちも同じようなことはできるのよ。確かに音は違いますよ。だからレコードの、ノイズがあってちょっとレンジが狭くなって歪んでる音。これが心地よく聴こえる年代の人がいるという話ですよね。どっちがいいとかいうことではない。
――昔食べてた味だから好き、みたいなことですかね。
そうそう。まずいんだけど、あの学食で食ったラーメンがよかったんだよね、というのと同じですよ。彼女ができてそんなもん食わせたら怒られるんだけど、自分のなかではノスタルジックな“いいもの”として成立しているわけです。
――その人の耳によって、いい音の基準は異なるということですね。
うん、レコードのほうが絶対的にいいということは、たぶんないと思う。なぜかというとレコードの音はマスター音源と似ていないんですよ。俺はいまレコードのマスターも作るし、CDのマスターも作るからわかるけど、音の再現性はCDのほうが上だね、残念ながら。レコードは見た目の通りで、外周のほうが針に対してのスピードは速いわけ。同じスピードで回ってるんだから、中に行けば行くほど遅くなる。周波数特性で言うと10,000Hzで7dbくらいダイナミックレンジが落ちるんだよ。音も歪んでくる。いい音するわけがないんだよ。だからなぜそれをいい音と感じる人がいるかというと、やっぱり味なんですよ。レコード針を落として聴く雰囲気とかいろんな匂いとか、そういう不完全な部分も含めて、その人が好きならいいんです。完璧な美人がいつもいいってもんじゃないのと同じ。
■CDで聴くと欲求不満になるくらいがちょうどいい
――レコードはCDに比べてマスター音源を再現しづらいというお話がありましたが、その点、MP3やAACなどの圧縮音源はどうなんでしょうか。
そうですね、まず圧縮音源というものが、どういう仕組みになっているかはわかります?
――人間の耳に聴こえないような周波数の音をカットしてデータ量を減らしている、という説明を聞いたことがあります。
あ、それは嘘。
――そうなんですか?
圧縮という言葉から上と下の音域をつぶしているように考えてる人が多いけど、それは間違い。周波数特性はCDもMP3も同じで、データの隙間の使ってない部分を詰めるだけだから、聴こえてくる音は理論的にはほぼ同じはずなんです。ただやっぱり実際の聴こえ方は違う。なぜそうなるかというと、そうやってデータを詰めたり伸ばしたりしていじってるから、微妙に間隔が崩れたりして、その影響が出ているんだよね。
――では音自体を削っているわけではないんですね。
そう、コンプレッサーをかけてつぶすのとは根本的に違うわけです。だからMP3の音が悪いのは仕方ない、という認識がまず間違いなんですよ。MP3のそういう性質を理解して、最適化したマスタリングをしてやれば、ちゃんと聴ける音を作ることは可能です。
――ではそもそもMP3は音が悪いという認識はどこから来てるんでしょうか。
いや、実際いま流通している音源には確かに音が悪いものが多いですよ。デスクトップミュージックが普及して、貧弱なモニター環境で確認作業をしている人が増えているせいだと思うんだけど、マスター音源自体が歪んでいるものが多い。素人のエンジニアさんたちが、迫力出したいがためにリミッターというのを使ってどんどん音のレベルを上げていくわけです。そうすると、解像度の悪いスピーカーで聴いてるとわからないんだけど、実は音が歪んでつぶれてしまうのね。つぶれるっていうか、ぐちゃぐちゃで飽和してる感じになっちゃう。
――なんだかベタッとした音のCDがあるなというのはたまに感じますが。
そう、そんなのけっこうあるんだよ。そしてそういう音源というのは、もとのデータがぐちゃぐちゃだから、圧縮するとさらにきたなくなってしまうのね。理路整然と並べることが不可能になる。だから情報量の問題でね、緻密な音、例えばハードロックで思いっきり歪んでるものでも、その中に細かいニュアンスとか倍音がキレイに残っている音であれば、変換してもそれほど音は悪くならない。実際は悪くなっていたとしても、雰囲気を残して、悪く聴こえなければOKなんですよ。
――それを実現するために北村さんはどのようなことをしているんでしょうか。
やっぱり実際に自分でAACやMP3に変換して聴き比べながら、どこまでいくとどういうふうになるっていうのをね、研究しましたよ。CDとしてリリースするものはCDで聴いたときに完成されてなきゃダメ。でもiTMS限定で発表する楽曲の場合はマスタリングを変えて、iPodで聴いたときにいちばん気持ちいい音になるようにしています。CD用の音源の一歩手前、もっと音圧上げられるという一歩手前であえて止めるのがコツだね。あと例えば中域でいうと300Hzあたり、この辺のイコライザーを気持ち削るとかね。CDで聴いたときにちょっと足りないかな、と思うくらいの音にしておくと、それを取り込んでAACに落としたときに「いいじゃんこれ!」ということになる。
――質が違うんですね。
そう、映像に例えると、AAC用の音はフィルムの解像度のいいやつって言えばいいのかな。ハイビジョンの絵じゃなくてもうちょっとアナログっぽさを残した感じ。ただのフィルムをビデオテープに落とすときたなくなっちゃうでしょ。でもちょっといじってやればちょうどよくなる。そういう表現がわかりやすいかもしれないですね。
後編「衝撃の第2回!」へ続く・・・
ランブリン大人袋 次回予告〜「衝撃の第2回!」
今回に引き続き、マスタリングエンジニアの北村秀治氏のインタビューをお届けします。音楽配信でダウンロードした楽曲をもっといい音で楽しむためには? そんなヒミツを知りたい人はいますぐチェック! 目からウロコの衝撃発言続出です!
次回は、5月上旬更新です!お楽しみに!
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